ナポレオンと絵画 ~現代にも通じるイメージ戦略~

 

ナポレオンという人物について、この人のことをどれほど知っているかは別として、ほとんどの方はこの者の名前を一度は聞いたことがあるだろう。

1759年にパリで発生した反乱を鎮圧したことで軍事的な地位を高め、1804年にフランス皇帝に選出された話は有名であろう。このようにナポレオンは軍事的なイメージが強いことと思うが、非常に策士であったと言われており、巧みなイメージ戦略を積極的に活用していたという。

例えば、今の時代のイメージ戦略と言えばメディアやSNSだろうか。当時ナポレオンがイメージ戦略で巧みに利用していたのが「芸術」である。

フランスの巨匠ジャック=ルイ・ダヴィッドが描いた「サン=ベルナール峠を越えるボナパルト」は非常に有名な作品の1つであろう。

 

 

 

この絵に描かれる峠は、馬で乗り越えることができないほど険しいもので実際にナポレオンが乗っていたのはラバであったとされているが、白馬に跨るその姿は美しく、そしてとても勇ましいものと描かれている。

この作品は皇帝に選出される以前に描かれた作品であり、いわゆる過剰演出、今の時代で表現するならば「盛る」ことで大衆に訴えかけたのである。

 

 

また、ナポレオンが皇帝就任後に執り行われた様子を描いた「皇帝ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌ戴冠式」もイメージ戦略を意識した作品と言える。ローマ教皇をナポレオンのパリ側に招く姿を描くことでその権力をしっかりと誇示することに成功する。

 

 

このようにナポレオンは美術作品をその美しさよりも、その物が及ぼす「力」に目を向けて上述の作品を作成させる他、戦利品として様々な美術品を持ち帰り展示することでその力を誇示してきた。現代においてもこのような戦略は多く取られている事だろう。一番に思い起こされるのは政治家の選挙ポスターだろうか。あれはまさにイメージ戦略と言って良いだろう。またこのような戦略は現代において、時の権力者だけのものではなくなっているだろう。SNSがインフラ化している時代において写真を盛ることはもはや必須の作業と言っても言い過ぎではないだろう。無意識的に個々人のイメージ戦略が日常に行われている、およそ200年の時を経て我々は当時のナポレオンと同じ戦略をとっているのだろうか。

いずれにしてもこのようなイメージ戦略は現代において必須項目であろう。教科書に載っていた何気ない作品の1つであったが、そこから現代を生き抜くヒントがたくさん詰まっていることを改めて考えさせられる。

 

 

<参考書籍>

木村泰司著 『世界のビジネスエリートが身につける教養 西洋美術史』 ダイヤモンド社 2017年