海外不動産による節税の封じ込め

 

海外の不動産は中古マーケットが非常に大きい。そのため売却時に建物価格が上昇している可能性が見込める。また、国土が狭い日本と比較すると不動産全体に占める建物価格の割合が大きくなることから、多額の減価償却費の計上も見込める。

仮に築年数が22年を超える木造賃貸物件を購入した場合、耐用年数は4年となる。4年間で建物を償却し、5年を超えたタイミングで売却を行うといる節税スキームが出来上がる。

しかし、このスキームが令和3年度より封じ込めとなる。ここでは今までのスキームと税制改正による封じ込めを説明する。

海外不動産による節税スキーム

①賃貸時

給与所得等の総合課税所得が累進課税における最高税率を課税される「高額所得者」は「総合課税」と譲渡所得の「分離課税」による差額で節税を行うことができた。

例えば、給与所得が1億円ある人の場合には約55%(住民税10%、所得税45%)の税金がかかる。そこで不動産収入がある場合給与所得と不動産収入を合算することになる。仮に不動産収入が

「賃料収入:1,000万円」-「諸経費:1,000万円」-「減価償却費:500万円」

=「不動産収入:▲500万円」

となった場合に給与所得と合算をし、500万円所得を下げることができる。税率は55%なので、

500万円」 × 55% = 「275万円」

の節税になることになる。

 

②売却時

賃貸時の節税は通常であるならば売却時に譲渡所得を計算する際に

減価償却費分を経費より差し引くことになるため節税していた部分は

出口に課税されることになる。

しかし、高額所得者は①と②時の税率の差の分を節税することが可能であった。

例)減価償却費500万円の場合

①の時 → 500万円 × 55% = 275万円(税負担減)

②の時 → 500万円 × 20% = 100万円(税負担増)

つまりはトータルで175万円は税金負担を減らすことが可能となる。

 

スキームの規制

令和3年から適用となる税制改正によりこれらのスキームは封じ込められることになる。

不動産所得を計算する際の必要経費の内、簡便法により計算した減価償却費に相当する部分は「生じなかったもの」とされ、損益通算等が不可能となる。また、当該建物を譲渡する際の計算において取得費から控除されることになる減価償却費に上記は含まれない。

この改正は令和3年分以後の不動産所得について適用となるため、「いつ購入した物件」かについては問われない。

 

国税による節税の規制は繰り返し行われている。制度の盲点を突くような節税は遅かれ早かれ規制される可能性が高い。節税を行うには、制度を網羅的に理解している最良のパートナーが必要だろう。

補足知識

①収益用不動産を購入して得た所得の計算方法

「総収入額」-「必要経費」=「課税不動産所得」

②不動産譲渡時の所得の計算方法

「譲渡価格」-(*「取得費」+「譲渡費用」)-「特別控除」=「課税譲渡所得」

 *「取得費用」=「取得価額」-「減価償却費」

③それぞれの所得の課税方法

(1)不動産所得

・総合課税

→赤字を他の所得と合算が可能

→累進課税 

(2)譲渡所得

・分離課税

→所有期間5年超の場合は約20%(住民税、所得税)

④中古資産を購入した際の耐用年数の見積もり方法

原則:合理的に見積もった耐用年数

簡便法:

(1)法定耐用年数の全部が経過しているもの

「法定耐用年数」×0.2

(2)法定耐用年数の一部が経過しているもの

(法定耐用年数)(経過年数)」+「経過年数×0.2

 

 

参照

奥村眞吾著「こう変わる!!令和3年度の税制改革」実務出版 2021

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1370.htm

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_2.htm