ブルゴーニュの神様=アンリ・ジャイエ
ワイン好きであれば知らない人はいないであろうワイン醸造家、アンリ・ジャイエ。
「ブルゴーニュの神様」、「21世紀最高の醸造家」と言われ、唯一無二と言える味わいのワインを生み出し、世界中の愛好家を虜にしてきた。ロマネ・コンティ、リシュブール、コルトンシャルルマーニュ、ジュヴレシャンヴェルタンなど、今日のブルゴーニュワインを確固たるブランドにした人物で、数々の異名を持つ伝説の醸造家だ。
アンリ・ジャイエは、フランスのヴォーヌ・ロマネのブドウ栽培農家に生まれた。わずか3ヘクタールほどのブドウ畑を父から受け継ぎ、当初は栽培したブドウやワインをネゴシアンに販売することを生業としていた。しかし、1970年代の不況でネゴシアンたちはワインを買う余力を失ったことで、自らワインを瓶詰めし販売を開始した。
「クロ・パラントゥ」はグラン・クリュであるリシュブールの北部に面した北東向きの斜面である。他のワイナリーからは見向きもされなかった荒れ果てた土地にアンリ・ジャイエはポテンシャルを見出し開墾。わずか1ヘクタールほどのプルミェ・クリュで作られるワインは数百万円で取引されるほどとなった。
アンリ・ジャイエの功績はそれだけではない。第二次大戦後、農業の近代化が進みワイン造りにも農薬や化学肥料が使われるようになった。ブルゴーニュワインも大量生産が可能になったが、品質の低下や味わいの画一化を招いていた。アンリ・ジャイエはこのような流れに一石を投じ、自然に回帰した農法を行う。農薬や化学肥料を極力使わない、ブドウに付着している自然酵母のみでアルコール発酵を行う、徹底した剪定でブドウ一粒に拘るなど、できる限り自然な製法と低収量によるブドウ栽培により品質の向上に成功した。
また、発酵前のブドウを低温で醸し、果汁に果皮を接触させて果実味を引き出すコールドマレーションを導入。これまでの高温発酵ではブドウの風味が失われていたが、コールドマレーションという画期的な手法により、ピノ・ノワールの持つエレガントな香りと味わいを引き出すことができるようになった。
アンリ・ジャイエは畑の持つテロワールを活かし、ピノ・ノワールが持つエレガントで繊細な味わいを引き出すことに成功するとともに、革新的な手法により今日のワイン造りに革命をもたらした。
品質が高く希少性あるワインは投資対象として、また、実物資産として保有される方も多い。中でもブルゴーニュワインは高い品質を維持しながら長期間貯蔵できることから、値崩れがしにくく人気だ。オークションでは常に高値で取引されている。注意したいのは、偽物が多く出回っているということだ。ルディー・クルニアワンによる偽物ワイン事件は有名な話だ。2000年代以降、アメリカのオークション業界に頻繁に出入りするようになったルディー・クルニアワンは、ロマネ・コンティやアンリ・ジャイエ、ペトリュスなど、自作の偽物ワインをオークションで大量に販売し、少なくとも1億5000万ドル以上販売したといわれている。ルディーはすでに逮捕されているが、現在もルディーが生み出した偽物ワインは市場に出回っているので気を付けたい。