相続と贈与の一本化
相続と贈与の一本化へ向けた議論が進んでいる。
近年増加している「老老相続」により消費意欲の高い若年世代への資産移転が進みにくい状況になっている。議論では「諸外国の例を参考にしつつ、課税制度の在り方について検討を進める必要がある」(一部抜粋)とある。令和3年度の税制改正大綱には含まれなかったが、今後も将来的な改正を見据えた議論が続いていきそうだ。
問題点
(相続税の役割)
*遺産の取得(無償の財産取得)に担税力を見出して課税するもので、取得の稼得に対して課される個人所得課税を補完するものと考えられます。その際、累進税率を適用することにより、富の再分配を図るという役割を果たしています。
*平成12年7月 政府税制調査会より
上述の通り、本来は「富の再分配」を達成するために相続税が存在している。しかし現在の日本は、急速な高齢化により「老老相続」が増加している。老老相続とは相続人と被相続人が共に高齢者であることを意味しており、消費意欲の高い若年世代への資産移転が進んでいないことが問題点として挙げられている。
現在の相続税と贈与税
①相続税
(相続税とは)
『相続又は遺贈により財産を取得した個人に対して、その財産の取得の時における時価を課税価格として課される税』
*2020年11月13日政府税制調査会、『資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築などについて』より抜粋
(計算方法)
(1)相続財産の総額から債務や基礎控除額、非課税財産を引いた残額を、法定相続分で按分して相続税総額を決定
(2)相続税総額を決定後、実際の相続割合に応じて相続税総額を按分して各人が支払う相続税額を決定
(3)各人が支払う相続税額から税額控除をした金額が相続税納付額となる
基礎控除:3,000万円+600万円×法定相続人数
税率:10%から55%の8段階の累進税率
課税件数:11.6万件
課税割合:8.5%
納付総額:2.1兆円
※課税件数、課税割合、納付総額は2018年のもの
②贈与税
(贈与税とは)
『個人から贈与により財産を取得した個人に対して、その財産の取得の時における時価を課税価格として課される税で、相続税の補完税としての性格を持つ』
*2020年11月13日政府税制調査会、『資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築などについて』より抜粋
<1>暦年課税
1年間に贈与により取得した財産から基礎控除を差し引いた残額に対して累進税率により課税
基礎控除:110万円
税率:10%から55%の8段階の累進課税
<2>相続時精算課税
1年間に贈与により取得した財産の合計額から特別控除を差し引いた残額に対して20%の税率で課税
特別控除:累計2,500万円(贈与者1人につき)
税率:20%
要件:贈与者⇒60歳以上
受贈者⇒20歳(令和4年4月1日以後は18歳)以上の法定相続人及び孫
相続税と贈与税の歴史
①相続税の歴史
(昭和63年まで)
基礎控除:2,000万円+400×法定相続人数
最高税率:5億円超75%(14段階)
(平成4年まで)
基礎控除:4,000万円+800万円×法定相続人数
最高税率:5億円超70%(13段階)
(平成6年まで)
基礎控除:4,800万円+950万円×法定相続人数
最高税率:10億円超70%(13段階)
(平成26年まで)
基礎控除:5,000万円+1,000万円×法定相続人数
最高税率:3億円超50%(6段階) ※途中変更有
②相続税と贈与税一本化の歴史
(明治38年)
〇相続前1年間の贈与を相続財産に合算
相続税:遺産課税
贈与税:―
(昭和22年)
〇一生累積型の贈与税導入
相続税:遺産課税
贈与税:贈与者課税
(昭和25年)
〇贈与税と相続税の一本化
相続税:取得課税
贈与税:同上
(昭和28年)
〇贈与税の復活(暦年贈与)
〇相続前2年間の贈与を相続財産に合算
相続税:遺産取得課税
贈与税:受贈者課税
(昭和33年)
〇法定相続分課税導入
〇相続前3年間の贈与を相続財産に合算
相続税:法定相続分課税
贈与税:受贈者課税
(平成15年)
〇相続時精算課税制度導入
相続税:法定相続分課税
贈与税:受贈者課税
世界の相続と贈与
相続税の課税方式は大きく分けて3種類ある。
①遺産課税方式(アメリカ、イギリス)
遺産総額に対して基礎控除や税率適用を行う。納税義務者は遺言執行人となる。
また、*相続と贈与は一体化されており一生涯の累計贈与額と相続財産額に対して一体課税される。これにより生前贈与と相続とでは税負担は同じとなる。
*アメリカの場合。イギリスは相続前7年間に贈与された財産を合算
(アメリカの相続税)
基礎控除:1,158万ドル(約12.6億円)
税率:18%から40%(12段階)
課税件数:0.5万件
課税割合:0.2%
納付総額:202億ドル(約2.2兆円)
※1ドル=109円
(イギリスの相続税)
基礎控除:32.5万ポンド(約4,583万円)
税率:40%(1段階)
課税件数:2.8万件
課税割合:4.6%
納付総額:50.5億ポンド(約0.7兆円)
※1ポンド=141円
②遺産取得課税方式(ドイツ、フランス)
各人の遺産の取得額に対して基礎控除や税率適用を行う。納税義務者は相続人となる。
相続と贈与は一定期間一体化(独:15年、仏:10年)されているため、期間内の生前贈与と相続での税負担は一定である。
(ドイツの相続税)
基礎控除:(配偶者)剰余調整分+75.6万ユーロ(約9,148万円)
(子ども)40万ユーロ(約4,840万円)
税率:7%から30%(7段階) ※続柄の疎遠は除く
課税件数:11.1万件
課税割合:19.5%
納付総額:56.9億ユーロ(約0.7兆円)
(フランスの相続税)
基礎控除:(直系血族)10万ユーロ(約1,210万円)
税率:5%から45%(7段階) ※続柄の疎遠は除く
課税件数:11.1万件
課税割合:19.5%
納付額:88.7億ユーロ(約1兆円)
※1ユーロ=121円
③法定相続分課税方式(日本)
法定相続人の数と法定相続割合により相続税の総額を算出し、各人の取得財産割合で按分。納税義務者は相続人。
詳細は<現在の相続税と贈与税>参照
※課税件数、課税割合、納付総額はアメリカ、ドイツは2018年、イギリスは2016年、フランスは2014年を使用
これからの相続と贈与
先にも述べた通り、相続税と贈与税の制度において元来設定した目的通りの役割を果たせていないのではないかという認識を示している。
議論の中に、「相続と贈与の一本化」とあるように諸外国の制度に近づいていくことは恐らく間違いないであろう。
人生100年時代を迎える日本に生きる我々にとって、次代への継承という責務を果たすためには「相続と贈与」についての今後のこの国の在り方を注視する必要がある。いずれはやってくるであろう相続と贈与の一本化、そして自らの相続に対しては今から対策を講じる必要があり、そのためには信頼できるお金の専門家を見つけることが極めて重要である。
参照
https://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2020/2zen4kai.html
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_4.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/zouyo301.htm
https://gentosha-go.com/articles/-/31278
https://gentosha-go.com/articles/-/33809