リスク選好度低下が株式市場急落を招くか
米連邦準備制度理事会(FRB)は半年に一度、金融市場のリスクを定点観測する「金融安定性報告」をまとめている。今月6日に報告書を公表し、FRB金融安定委員会の委員長ブレイナード理事は声明で「バリュエーションの伸長と高水準の企業債務により、価格調整への影響が大きくなる可能性があるため注視が必要だ」と警戒感を露わにした。また、同報告内でこのような状況においてリスク選好度が低下した場合に、資産価格が大幅に下落する可能性があることを指摘した。新型コロナウイルスによって落ち込んだ雇用の回復を最優先とするパウエル議長は金融緩和の継続を基本方針とし、必要に応じて規制を強めていく方針だ。しかしながら大規模な金融緩和によって株式市場が過熱を帯びている状況は否めない。米国株式市場は今月に入り、過去最高値を更新してきている。
価格上昇が続く一方で、バリュエーションが高くなっている。現在の米国株式市場はPERが20倍を超えており過去15年の平均値15.2倍と比較しても割高であることが分かる。リスク性資産への資金の流れは超低金利による影響であろう。市場参加者が収益を上げるためには、低い金利の所からリスク性資産へお金の流れが生まれるのは当然であろう。新型コロナウイルス対策として当面の間、ゼロ金利政策継続の方針を掲げた結果が市場参加者のリスク選好度を高める一端を担ったことだろう。パウエル議長は4月に「金融市場は安定を保っている。」と発言したものの市場にバブルになりうる要素が存在していることを認め、警戒感を高めている。市場参加者がより過熱感を感じ、リスク選好度が低下した時には先述の報告書にあるように大幅な価格調整と実体経済に下圧力を加えかねない。
イエレン米財務長官は今月4日のインタビューで、バイデン政権による経済支援を目的とした大規模な財政支出の拡大は金利の上昇をもたらす可能性があることを言及。これにより金融市場に一時的に動揺が広がった。バイデン政権は富の再分配による格差縮小を掲げている。この政策による支出の拡大を法人税の増税や富裕層への譲渡所得の増税で賄う方針だ。5月に入り最高値を更新しているNYダウに対し、NASDAQは5月に入り(3~5日)連続下落となった。リスク性資産の選好は既に始まっている。
<参照>
FRB、資産価格の急落リスク警鐘 「高圧経済」にひずみ:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB0750Q0X00C21A5000000/
イエレン財務長官、利上げを予想も推奨せずーFRBの独立性尊重:bloomberg
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-05-04/QSLNF4T0G1KW01
リスク選好低下なら資産価格急落の恐れ:bloomberg
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-05-06/QSPBLSDWRGHR01
J.P.Morgan Asset Management 『Guide to the Markets』Japan 2Q2021 As of March 31,2021